白い大猿に会った話

もうずいぶんと昔の話ですが、川中島の武田方の山城、尼飾城の調査に行ったときのことです。
その日はいくつかの武田方の城に登り、最後に夕方4時半ころから、尼飾城に登ることになりました。
本来なら、こんな時間から山に登ることなどありえないのですが、若かったんでしょうね。
無茶をしてしまいました。
何とか暗くなるまでには帰ってこれると思い、山を登り始めました。
登山道をぐんぐん登っていき、これなら楽勝で登れると思ったのですが、気が付くと、道は城山の頂上に向かわずにどんどん離れて行っているのです。
それ以外に道はなかったので、道を間違えたわけではないのですが、その道からは頂上へはたどりつけないとの思いが強くなりました。
今だったら、無理せず、迷わずそこから引返すのでしょうが、もう、3分の2くらいは登ったはずなので、ここで引き返すのは悔しいとの思いの方がそのときは上回ってしまいました。
しかし、山頂への道などどこにもなく、目の前にはただ山の斜面だけが立ちふさがっています。
「どうしよう」
ただ、もう考えている時間などありませんでした。
日没は迫っているのです。
そのときでした。
山頂の方から大きな生き物がものすごい勢いで斜面を下ってきました。
一瞬のことでしたので、詳しい正体は分かりませんが、動物園で見たヒヒのようであり、大猿のようでもありました。
ただ、その生き物は全身が真っ白な毛に覆われ、なぜか、とても神秘的な存在に思えました。
このとき、頭の中に、この目の前の斜面を直登すれば必ず最短で山頂にたどり着けるのではないか、それをあの大猿が教えてくれたのではないかとの思いが沸き上がりました。
そして、それに勇気を得て、斜面を直登し、ついに山頂の山城にたどり着くことができたのです。
しかし、城の遺構を見ながら山頂をかけめぐっていたら、あっという間に日が沈み、辺りは真っ暗になってしまいました。
ぐずぐずしたらここで一夜を過ごすことになります。
幸い、月が出ていたので、月明かりを頼りに、帰りは斜面を猿のように一気に駆け下りて無事に下山することができました。
今考えれば、足を一歩踏み外すと、斜面を真っ逆さまに転げ落ち、大けがをしていたかもしれませんが、白い猿のお陰でそんな不安はまったくなく、自分でも不思議なくらい落ち着いて斜面を下ることができました。
このとき、命がけで(?)調査した尼飾城については拙著『真説川中島合戦』(洋泉社歴史新書y)に述べております。
フィールドワークをやっていると、こんないろんなエピソードがたくさんあります。
また、このブログでおいおい述べていきたいと思います。

タイトルとURLをコピーしました