佐和山の思い出

もう随分まえの前の話だが、滋賀県彦根市の佐和山城跡の麓に一軒のドライブインがあった。
見た所、やや古い感じがするコンクリートの建物であったと記憶している。
そのドライブインのある場所は佐和山トンネルの入り口付近で字名を「枡形」と言った。
「枡形」の由来は、かつてその場所に佐和山城の枡形門があったからだという。
しかし、そのころにもかつて門があったような形跡はどこにもなかった。
そばに城に入る切通道があったことから、そこに入る門だったのかもしれない。
私はそのころ年に何回か東京から車を飛ばして、佐和山に登っていたが、そのたびに、そのドライブインに寄って食事をしたり、お茶をいただいたりした。
私がそこを訪れる時間帯が良かったのか、いつもほとんど客はおらず、私はゆっくりくつろぐことが出来た。
そのドライブインのウエイトレスはオーナーでもある中年の女性の方で、給仕の度にいつもいろんな話をして下さった。
「わざわざ東京からこんなところに来るなんて熱心やね。三成さんもきっと喜んではるわ」
「あのトンネルを抜けたところから、振り返って佐和山を見ると、石垣がずっと続いているのが見えるんよ。それを見るたびに、昔、ここに城があったんやなって思うんよ」
えっ、佐和山にそんなすごい石垣があるの?それは是非とも見てみたい。
私はその言葉にひどく胸が躍った。
そして、その石垣を見つけるためにそれから何年も佐和山に通うことになったのである。
続く

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