櫻井教授の見解

 私は、当時、絶版になっていた教授の本がどうしても読みたくて、著者である桜井教授に直にお願いして譲ってもらったことがあり、それがきっかけで、以来、何度か博士の自宅を訪れては、貴重な話を聞いていた。
 教授はたいへん気さくな人で、筆者のどんな質問にもいやな顔一つみせず答えてくれ、時にはアトリエに案内して教授が丹精込めて作った城の復元模型を心ゆくまで見せてくれたりした。
 そんなことから、豊臣時代の城に詳しい教授に古絵図に描かれている佐和山城を見てもらうことにしたのである。
 教授は私の差し出した写しを、愛用の虫眼鏡で隅々までじっくりと見ていたが、すぐに、ここに描かれている天守閣は実際の建物を描いたものではないと断言した。
 教授はそのとき、それ以上の事は何も言わなかったので、私も、ついそれ以上は聞けなかったのだが、教授が故人となった今となっては、その詳しい理由を聞かなかったことが悔やまれてならない。

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