川中島合戦雑記2

今まで見てきたこの合戦の話はというと、江戸時代初期の元和年間(一六一五~一六二三)に完成したとされる『甲陽軍鑑』という軍記書に書いてあるものなのである。
そこには確かに合戦の内容は詳しく描かれてはいるが、『甲陽軍鑑』は川中島合戦から五十年以上も経ってから成立したものであり、さらにそれを裏付ける確かな史料がないため、それがどこまで事実を伝えているかはまったく分からない。
その意味では、伝えられているような川中島合戦が本当にあったのかかどうか、それさえ疑問であるといえる。
その川中島合戦における一番のエポック。それは何といっても信玄と謙信の一騎討ちであろう。
だが、この話、まったくの創作とは思えないふしがある。
というのは、合戦の一ヶ月後に関白の近衛前久が上杉謙信に宛てた手紙に「(謙信が)自ら太刀を取って戦ったことは天下の名誉である」と書いているからである。
この内容から、確かに、謙信が合戦で太刀を取って敵と戦ったという事実があったことが分かる。
ただ、この手紙にはその相手が武田信玄であるとは書いてないので、二人が一騎討ちをやったかどうかは残念ながら分からない。

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