昔、佐和山に登ったこと 24

私は、心の中でずっと疑問に思っていたことを聞かずにはいられなかった。
それは、ここ石田会館が建っている土地は、かつての石田家の屋敷跡だと聞いていいるが、戦前から屋敷を示す何の痕跡もなかったのかということであった。
すると、木下さんは、ここは昔からただの広い田んぼで、「治部池」と呼ばれる小さな池が隅にぽつんとあるだけで他には土塁や堀の跡なんか何もなかったと話された。
しかも、この場所を寄附してもらい、石田会館を建てたのだが、昔から田んぼだったところなので、地盤が柔らかくて難儀したという。
石田屋敷はかなり早い時期に壊され、土塁は削られ、堀は埋められ、痕跡をすべてなくした上で、田んぼにされてしまったのだろう。
私は、それについての言い伝えなどはないかと聞いたが、そんなものはこの村には何も伝わってはいないという。
木下さんは、戦前、やさしかった祖母からたった一度だけ、目を三角にして怒られたことがあるという話をしてくれた。
木下さんは、「後にも先にもあんな怖い祖母は見たことがなかった。怒ると目が三角になるというが、祖母の目は本当に三角になっていた」と子供の時の話をしてくれた。
それは、木下さんが村の八幡神社で木登りをするために、そこにあった塚に乗って遊んでいたときであった。
「そんなことをしたら罰が当たる!」
祖母は木下さんをそれはそれは厳しく叱ったという。

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