昔、佐和山に登ったこと⑯

桜井教授は、戦前、土砂に埋もれていた織田信長の居城、安土城の発掘に初めて携わった人物でもあり、安土城の他にも多くの全国の城の調査にも関わっていたという。
教授は、そんな貴重なお話を惜しげもなく、私に話して下さった。
私は、当時、絶版になっていた教授の本がどうしても読みたくて、著者である桜井教授に直にお願いして譲ってもらったことがあり、それがきっかけで、以来、何度か博士を訪れては、貴重な話をうかがっていた。
教授はたいへん気さくなやさしい方で、私のどんな質問にもいやな顔一つみせず答えてくれ、時にはアトリエに案内して教授が丹精込めて作った城の復元模型を心ゆくまで見せてくれた。
そんなことから、豊臣時代の城に詳しい教授に古絵図に描かれている佐和山城を見てもらうことにしたのである。
教授は私の差し出した写真を、愛用の虫眼鏡で隅々までじっくりと見ておられたが、すぐに、ここに描かれている天守閣は実際の建物を描いたものではないと断言された。
確か、屋根の形が違うとおっしゃっていたような気がするが、教授はそのとき、それ以上の事は何もおっしゃらなかったので、私も、それ以上は聞けなかった。
教授が故人となった今となっては、その詳しい理由を聞かなかったことが悔やまれてならない。

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